11/26に開催されました地籍問題研究会第17回定例研究会(テーマ 公図の源流をさぐる)につきまして私以外の報告者の方の内容につきまして感想を少々書きたいと思います
・基調講演
土平博先生(奈良大学文学部地理学科教授)
「大和国における地租改正地引絵図の作成経緯と地割に関する諸問題」
歴史地理学がご専門の土平先生からは、基調講演らしく佐藤甚次郎先生の功績の解説に始まり、奈良県内の各大学の所蔵している地籍図関係資料の種類についてお話を頂きました。なお、奈良県は明治時代には「堺県」として現在の大阪堺市と同じ県域であった時期もあることから、地籍図については滋賀とは違って少々ややこしい経緯があります。おそらくそうした経緯で奈良の地租改正図は税務大学校租税資料室に移管されているのでしょうね。また滋賀でもよくみられる条理地割や文禄検地・延享検地についての古文書など印象的なお話でした。
なお、土平先生は伊能大図展を奈良大学で開催された時から土地家屋調査士会とのご縁を頂いているようですが今後とも、特に歴史地理学者の先生方とはいろんなシーンでコラボしたり、交流を深めていくべきだと改めて感じました。
藤原勇喜先生(藤原民事法研究所代表、地籍問題研究会監事)
「公図の沿革と現代的意義」
土地家屋調査士にとっては必携の書である「公図の研究」の著者である藤原先生です。同書を執筆されたときは未だ「係長」ポスト時代であったとのことでした。公図については職務上、随分悩まされましたとのことで公嘱協会の立ち上げの際のエピソードなど正に歴史の生き証人である先生のお話は含蓄に富んでおりました。
・研究報告
西村和洋会員(土地家屋調査士(滋賀県土地家屋調査士会))
「江戸時代から現代への地籍図及び土地境界の変遷 ―滋賀県大津市を事例として― 」
砂道章会員(土地家屋調査士(富山県土地家屋調査士会))
「地租改正当時の富山県」
砂道先生からは富山県に関して地籍に関する歴史的な経緯を整理し、お話を頂きました。北陸各地でみられる「割地慣行(田地割)」のお話や、地元富山の有名な和算家である石黒信由の事績などをご紹介いただきました。石黒の事績は大変先進的なものであり、今日でも射水市新湊博物館で素晴らしい展示がされています。ホームページも高樹文庫資料として充実していますのでぜひ一度ご訪問ください。
山田榮冶会員(土地家屋調査士(秋田県土地家屋調査士会))
「公図における信頼性の検討」
秋田のベテラン土地家屋調査士である山田先生からは公図の分析手法を標準偏差なども用い詳細にご解説をいただきました。また地租改正当時の秋田県の識字率を推定され、そこからさらに掘り下げて秋田県に残る地籍図の分析も行っておられた点は大変ユニークだと思いました。
なお、土地家屋調査士三名の研究報告すべてに一間の長さの問題が出ていました。「一間」の長さは「六尺五寸」「六尺三寸」「六尺」と主に三つの基準がありますが、計らずも同じような話題が出てくるところに妙な親近感を覚えた次第です。土地に関する慣習は地域によって違うところは全く違うのですが、共通項も間違いなくある、ということが確認できたことだけでも収穫だったように感じました。
いずれにせよ今回の定例研究会は一報告者の立場ではありましたが、純粋に他のご報告をお聞きしたり、懇親会の席上での会話でも学んだことは多くありました またこうした機会があれば是非参加させていただきたいと思います