GEXPO「境界の深い世界」「時空間を旅する歴史の見方・地理の見方」

 前回に引き続いてG空間EXPO 2017に参加しての感想です。今回は2017年10月14日の二本のプログラムについて、です。

 

Geoエデュケーションプログラム

テーマ「境界の深い世界 -地図に潜む土地の歴史-」

講師:境界協会主宰、日本地図センター 地図中心編集長 小林 政能

 

 個人的には予てより、ひそかに注目?していた「境界協会」のプログラムです。代表を務めておられる小林政能先生(「月刊地図中心」編集長)の講演でした。

「境界協会」とは初めて目にする方もおいでかとは思いますので少し解説をしますと、要は自治体や町(大字)の境界に着目し、フィールドワークをしつつ現地で確認し、それを楽しみつつ、境界の不思議さに思いをはせるという、なんともマニアック?な団体です。ただ、そのネーミングのセンスの良さといい、境界について様々な角度から調査されている様は土地家屋調査士にとって、とても他人とは思えない団体ではないでしょうか。

 

 今回の講演で興味深かったのは荒川の河口が埋め立てによって伸び、その伸びた荒川の流水面の境界を対岸のどちらに帰属させるか、というお話です。ほかにも東京湾の中の埋め立て地を江東区と大田区が文字通り火花を散らして境界争いをし、最終的には東京都の裁定で境界が決まった事例もご紹介いただきました。

 なぜそこまで自治体が境界にこだわるかといえば、もうお分かりとは思いますが、ズバリ地方交付税の金額算定に関わってくるからです。そういえば琵琶湖の内水面も滋賀県内の市町で分割し、改めて境界を引いたのもそうした理由があったことを思い出しました。

 まとめとして小林先生が「境界は地形で決まるのではない。様々な(社会・経済要因等)要因が境界を作り出すのです」といったような趣旨のことおっしゃられました。土地家屋調査士として大変考えさせられる、貴重な講演でした。

 また、土地家屋調査士にとっては制度広報・社会へのPRの手法についてもこの「境界協会」さんから学ぶべき点はたいへん多いと思います。最近はTV出演も多々あるようですし、皆さんも是非注目して下さい。

 

 

続きまして午後のプログラムです

 

G空間EXPO 2017 講演・シンポジウム

全体テーマ「時空間を旅する歴史の見方・地理の見方」

主催 (公社)日本地理学会

 

趣旨説明・司会 一ノ瀬俊明氏 (国)国立環境研究所・地球環境研究センター

講演者1 安藤広道氏 慶應義塾大学教授

講演者2 渡辺理絵氏 山形大学准教授

講演者3 小島豊美氏 (株)ジャビール代表取締役

講演者4 D. スプレイク氏 (国)農業・食品産業技術総合研究機構

 

 14日の午後は日本地理学会主催のシンポジウム「時空間を旅する 歴史の見方・地理の見方」に参加させていただきました。実は私も日本地理学会の会員の一人ですので、他のプラグラムとどれにするか、少し迷ったのですが、結局はこのプログラムに参加させていただきました。

 

「地域を題材とするテーマに対して、歴史学と地理学のアプローチにはどのような違いがあるのだろうか? このシンポジウムでは、民俗考古学・古地図・土地利用史などの研究者から話題提供を頂き、歴史の見方・地理の見方のユニークさと魅力を展望する」(企画案内より)、というこれまた刺激的なプログラムです。

 なお、今回のこのシンポジウムテーマのネーミング、「G空間EXPO」にかけたものなのか、どうかは知りませんが、どなたか駄洒落な好きな方が名付けられたのでしょうか…

 

 なお、実際には4名の先生方から報告がありましたが、御二方のみ取り上げます。

 まずは「近世の山林景観を絵図から読み解く」渡辺理絵山形大学准教授からの報告です。江戸時代に四度作成された国絵図のうち、正保国絵図について、出羽国の件を取り上げていただきました。国絵図ではスケール的にあまり詳細には山林景観などわからないのではないか、と思わないではなかったのですが、出羽国の国絵図がとにかく大きいことが紹介され、山地には緑色が塗られるなど、それなりにちゃんと描かれていたことがわかりました。

 ただ、今回はその国絵図の作成過程で、出羽国の五つあった大名家から領内絵図が下書きとして作成されたということ、そしてそのうち現存している庄内藩作成の領内絵図について詳しく解説していただきました。現在の地域では山形県庄内地方ということになります。

 江戸時代前期、庄内藩は産業として製塩を奨励していたようで、そうなると当時の製塩方法ではたくさんの燃料(薪)が必要になります。そこで、海岸周辺はおろか、燃料となる木材を運びやすい最上川の流域については芝山、あるいは禿山が広く分布していることが絵図表現で見て取れるとのことでした。なお、つまらないことですが、実は私は今まで「芝山」と「柴山」あまり明確に使い分けをしていなかったのですが、今回のご報告で「芝山」は草のみが生えている山、「柴山」は低木までの植生がみられる山、それから先は「雑木林」となる、とのことでした。それぞれ意味があるのですね。

 

「歴史地図のGIS化と農業景観の変遷」D.スプレイグ氏(農業・食品産業技術総合研究機構)からの報告は明治14年に参謀本部陸軍測量部によって作成された迅速測図について、この地図をGISにのせて、分析してこられた内容のご報告でした。もとより、その名のごとく農業をメインに研究しておられる団体の研究者の方ですので、もっぱらその分野の分析がメインとなります。

 今回は、筑波山にもほど近い、茨城県牛久市あたりを主な事例として、明治14年から現代までの土地利用についての変化を時系列で辿るといった、大変興味深いご報告でした。    

 迅速測図を作成した当時には存在した草地の景観が、1910年にはすっかり消滅していたようです。栽培方法の変化、開墾技術の高度化などもあったのかと思いますが、長い時をかけて形成された景観もあっという間に改変されてしまうものですね。先生も「日本の土木はすごい」とおっしゃっていました。

 ただ、先生曰く、迅速測図の植生を分析したところ、資源供給地(田んぼにすき込む草などをはやしておく場所)がおおよそ60%、資源利用地(田畑など)が40%というバランスがあったそうですが、それがすぐに崩れたということです。持続的な農業経営といった意味ではいささか疑問が残るところです。

 また迅速測図ですが、幾何補正などを行って、現代の地図にあわせてこられているわけですが、当時限られた予算やスケジュールの中で造られたことを考慮すると、全体としては大変精度は高いということです。ただ局所的(ローカル)にはところどころ、ずれが大きい箇所がみられるとのことで、そこは注意がいるとのご指摘がありました。

 

 本プログラムを受講しての感想として、私も土地家屋調査士は時間と空間、この両方の視点・アプローチが必要な専門資格業だと常々思っていますが、その思いをさらに強くしました。

時空間を旅するにはそれなりの知識や教養、経験が必要とされると思いますが、実は一番大切なことはそれらをバラバラでなしに、「総合する力」だと思います。言い換えれば「知恵」とでもいうのでしょうか。時にはこうして時間(歴史学)と空間(地理学)の専門家の先生のお話をお聞きして、自らの「総合する力」「知恵」を磨くことは大切なことだと思います。とりわけ今回は古代から近代までの専門家が一堂に会されていましたので、それぞれの専門分野をベースにして、最後の討論の場で積極的な意見交換がなされていたのは大変印象的でした。

 

 講演の合間合間にブースを回っておおよそ、こんなキーワードが浮かんできました。「UAV(ドローン)」「3D(三次元)」「準天頂衛星」「防災」「GISの教育の場での浸透」「歴史地図」

 

「UAV」「防災」については予想通りといいますか、多くのブースとも意識されていたように思います。

「GISの教育の場での浸透」、これは高校や大学でGISを利用した地域調査や分析が随分と進んでいることを今回感じました。

 土地家屋調査士の間でもGISといいますと、なかなかハードルが高い、よくわからない、といった意見が出されます。しかし教育の場で普通にGISを活用してきた若者からすればGISを使えない人たちが不動産の調査を生業としている現実に驚かれるような時代がそこまで来ているのではないでしょうか。

 ただ、会場の一画で測量コンテストでしょうか、トータルステーションをのぞいて測量している多くの学生さんを発見し、なんだか少しほっとした気にもなりました。

 

 今回はG空間EXPOのトータル三日間の開催のうち、二日間に参加させていただき、大変刺激を受けることができました。日ごろ井の中の蛙の状態でいる自身にとって、社会・技術の大きなトレンドを体感するには、いい機会であったと思います。

 

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