本書は出版時期から推察するに、平成12年4月1日に「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」が施行され、同時に「国有財産特別措置法」の改正によって、それまでは国の財産であった、里道・水路等(いわゆる「法定外公共物」)道路法、河川法の適用がされない公共物が、平成17年3月末で市町村に譲与されるに伴い、実務上の要請が増したことから出版されたものだと思われます。
当時はこの改正にともない、それまで滋賀県(県事務所)で事務を行われてきた土地境界確定や里道水路の用途廃止・払下げ等に関する手続が、それ以降は市町村で執り行なわれるようになりました。手続きを代行する側としてはそれまで、滋賀県と該当する市町村両方に書類を出して手続きをしていましたので、県側の手間が省けるようになったおかげで、業務的には楽になり嬉しかったことを今も思い出します。
著者である塚田利和先生は土地家屋調査士の大先輩にあたるお方で、香川会の現役会員さんです。個人的には地籍問題研究会等で数回お話をさせていただいたこともあり、直接お電話を頂戴したこともあります。随分ご高齢でもあり、碩学の先生ですので、こちらが恐縮してしまいますが、ご本人は至ってお元気で、年齢を感じさせないほど熱心に地籍や地籍図、登記制度について語られるご様子が大変印象に残っています。
本書は第一編が解説、第二編が行政財産(道路・水路)関係主要法令、第三編に関係判例、第四編が資料という構成です。今回本書を手に取りましたのは官民境界、特に道路幅員などに起因する原始筆界について調べたいと思ったからです。
本書で語られているなかで最も印象的な箇所としましては第一章5の地形測量と地積測量について触れてある一文です。
本書P17で『地積測量とは、民法上の権利(民法第175条)を成立させる「物」(土地)を具体的に特定し第三者に認識させる目的で、「物」の物理的事項を規程性に基づいて文字、図形を用いて土地を「一個の物」としてその性質を定める調査測量で、物の存否、所在、地積を確定する測量である。』と定義されていります。実際に塚田先生のお話をお聞きした際にも同じように力説されていましたが、地籍測量とは地形測量には属さない全く異質の測量である、という点、塚田先生の土地家屋調査士としての矜持のようなものが強く感じられました。後に続くものの一人として噛みしめたい命題であると思います。
また、本書P23では明治8年5月に改組局が制定した「地所処分仮規則」についても触れています。その「地所処分仮規則」の第一章処分綱領第8条に「渾テ官有地ト定ムル地所ハ地引絵図中ヘ分明ニ色分ケスヘキコト」と規定され、改租処分確定図(土地台帳附属絵図)に道路は赤色、水路・河海・湖沼・溜池は青色、堤塘は灰色等を着色し国有地であることを公示した、とのことです。
このことについて、本書では、“すなわち「着色処分」で土地整理対象外の行政財産に関する台帳は調整しなかった”、とあります。「着色処分」とは初めてきいた用語のように思いますが、どことなくユニークな表現であり、また妙にストンと得心できる表現のように思いましたね。
上に紹介されている事例5のケース(本書P39)、雨落ち(建物庇箇所)と道路敷との境界について説明がなされています。大変興味深く拝見いたしましたが、少々理解しづらい説明でした。事例紹介の全体についても、もう少し説明があればと思いました。
他にも、本書第二編の行政財産(道路・水路)関係主要法令の紹介のページでは、古くは享保検地条目や、幕藩時代の慣習(道路幅など)についても掲載されており、里道水路の成り立ちを理解したり、公共物の幅員などについて調べ物をする際には重宝できると思います。既に絶版の書籍ですので入手も困難かもしれませんが、塚田利和先生の一連の著作は読了の価値は必ずあると思いますので、どうぞ一度手に取ってみてください。