平成30年6月27日、滋賀県教育会館大会議室におきまして、滋賀県土地家屋調査士会研修会「森林境界明確化の周辺事情―境界の専門家としての土地家屋調査士への期待―」が開催されました。研修会の講師は中部大学国際GISセンター准教授で、昨年度は滋賀県森林境界明確化推進検討会座長を務められました竹島喜芳先生でした。
今回の研修会では、山林地における境界の不明確が効率的な林業経営のみならず、災害予防や復旧、森林の多面的機能の発揮へ深刻な影響を与えている状況を知り、土地境界の専門家として境界明確化事業へ関わり方を考える場として開催されました。
特に今回は、日本の林業や山村の振興のために、境界明確化がどうして必要なのか、またどうすれば境界明確化が進むのか、社会的経済的な側面からの解説を軸に、竹島先生ご自身が関わってこられた境界明確化事業の中での実際の活動をご紹介いただくという趣旨の研修会です。
研修の内容は大まかに二つの構成で、一つは日本の林業を巡る概論的なお話、もう一つは森林境界明確化事業の実際と今後の方向性といったところでした。
研修会では最初に、こんな知識は最低限持っておいた方が、林業従事者との話が弾むよ、ということで国産材率、木材の使われ方、森林面積が国土の何割か、林業の経済的価値、森林の所有状況について解説をいただきました。驚いたことに、日本の林業のGDPは、なんと3000億円しかないとのこと。しかも、うち半分は「徳用林産」といってキノコの生産だとのことでした。また日本の森林所有者が世界的に見て非常に零細で、細分化しているとのことでした。
また、実際には材木を集めたくても、材木が集まってこない日本の実情や、森林経営管理法が今年4月に可決され、日本の森林整備も大きく変わりつつあることの御紹介もいただきました。
ちなみに森林経営管理法の趣旨は、林業の成長産業化と森林資源の適切な管理の両立を図るために、市町村を介して林業経営の意欲の低い小規模零細な森林所有者の経営を意欲と能力のある林業経営者につなぐことで林業経営の集積・集約化を図ると、経済的に成り立たない 森林については、市町村が自ら経営管理を行う仕組みを構築することのようです。
要は行政主導で林地を集約化して、やる気のある林業家に経営してもらおう、ってことでしょうか。そう言えば、農地でも同じことが進んでいますね。
先生曰く、森林境界の根本原因の一つは、江戸時代とは違って、山林経営に用意のない者が突然、相続などで山林所有者になってしまうのが今日の問題とのこと。その解決手段として、この法律の趣旨、必要性を痛感します。
また、この間の森林境界明確化についての大まかな国の動きとしては
平成14年~ 林野庁の事業で境界の確定が始まった
平成22年 山村境界基本調査 国土交通省
平成30年~ 森林経営計画制度 森林法 (昔は森林施業計画)
他に注目は、市町村が現在公開している「林地台帳」。隣地所有者などが確認できる、地所有者や林地境界に関する情報を公表しているとのことです。
ただ、先生からは実際に連絡がつかない住所では意味がない、とのこと。様々な問題は山積みだが、ともあれ林地台帳整備が進んでいるのが現状だそうです。
竹島先生ご自身が携われた森林境界明確化の事例では、はやらなくなったスキー場をもとの地主に返すための森林境界の復元をおこなったという体験談が興味深かったです。
他に「道を作ったから返って山がわからなくなった 何とか昔の場所が知りたい そうすれば地域住民で杭打ちができる」という自治会からの依頼がきっかけの案件。林道ができて、土地の場所が不明になるという皮肉を感じました。
先生曰く、これまで関わってきた境界明確化事業は 座談会→立会→測量 という進め方でやってきた。境界明確化そのものの趣旨や必要性を説くことも有ったとのこと。
とにかく、現場を動かすには 事前準備 ⇒ 立会 ⇒ 測量 ⇒ 境界情報管理。この一連の流れは、林業の世界の中では画期的だったとのことでした。事前準備の重要性(リーダー・合意形成)、次に境界情報管理。体験に基づくお話は大変貴重なものでした。
研修会場には普段の研修会より多くの土地家屋調査士が参加され、また遠方では兵庫県や愛知県からも参加されるなど、まれにみる盛況でした。
私は竹島先生の著作も事前に何冊か拝読していたことも有り基本的にすんなりとお話を伺うことができました。山林地・森林の境界という、省庁の縦割り関係もあって?土地家屋調査士にとって実のところ、近そうで遠かったテーマでしたが、今回の研修会を通じて近くて近いテーマとなることを期待しています。
今回お忙しいところ講師をおつとめいただいた竹島喜芳先生、たいへんありがとうございました。