平成30年12月4日、大阪土地家屋調査士会会館会議室に置きまして『日本土地家屋調査士会連合会研究所・近畿ブロック協議会共催研究テーマ「土地法制」調査研究報告会』が開催されました。
私も協力員の一員として参加させていただくとともに、僭越ながら当日は司会の役割も仰せつかりましたので大阪まで行ってきました。
今回の企画の大まかな開催趣旨としましては、この2年間の連合会研究所研究員による近畿地区での調査及び研究活動の成果の報告を、まずは近畿各会の役員さんや協力員のメンバーを中心に還元するということで開催されました。
報告会では研究報告として「近畿各県における明治の地籍図と公図との関係について」と題した近畿6府県の地籍図と公図、そして境界に関する地域慣習についての総括的な報告が古関大樹特任研究員よりありました。さらに他の研究員からも担当された各県ごとの特徴を、さらに掻い摘んで報告が行われ、参加者による総合討論に入りました。
総合討論では各会からそれぞれの地域における地籍図・公図の特徴をメインにした報告が行われました。 具体的にざっと討論でのテーマをあげますと「山林公図が現地の形状とかなり正確に符合する地域」「和歌山県の公図の特色(二線引地の処理を巡って)」「旧播磨健、特に西播磨地域に残る内務省地籍編製図の特色」「奈良県御所市の公図」「旧大阪三郷町の公図と周辺部の公図 ―水帳・地券台帳・土地台帳ー」「堺市における公図―軒下地ー」「滋賀の地籍編集委員長の思い」という、いずれも多彩で魅力的な内容でした。
特に和歌山の二線引(公共物もどき?)の事例は山間部の多い地形と、他県より比較的高いとされている和歌山での税金を少しでも軽減するための措置であったとうかがいました。
また公図の再製図についての報告もありました。いわゆる「奈良正図」が関東圏内にも存在することも報告されましたが、実務的には大変重要な指摘だったと思います。
上は京都会の西尾協力員による保津峡あたりの公図の報告。公図二枚を重ね図に加工され、報告をいただきました。山岳地域でもあるのにかかわらずグーグルアースの航空写真ともかなりあっています。京都会では裁判官向けに公図や土地境界について研修会を実施されているとのことでした。
大阪会中山協力員による堺市の公図の報告。公図に書き込まれた道路箇所を拡大すると、軒下地がちゃんと書き込まれています。堺には元禄2年に大絵図が作成されていますが、これには軒下地の記載はありません。元禄8年町絵図にちゃんと書き込んだ大津とは大きな違いです。
今回の報告会は、2年間の調査研究活動の集大成ということでしたので、大変期待して参加させていただきましたが、内容的には期待を上回るものであったと思います。
土地家屋調査士の業務を行うに際して法務局備付け公図の調査は基本中の基本です。しかし地元ばかりでなく、近畿圏内で相互乗り入れというか、他県で業務を行っているケースも多いのですが、地域ごとの公図の見方について大変参考になるものでした。
近畿ブロック協議会としても、ブロックのスケールメリットを今回の調査報告では存分に感じることができました。単位会単独では、地域慣習と言っても常識的に理解しているところがあって、ややもすると鈍感になっている部分がありますが、このように他県の実例を紹介していただくと、自分たちのルールはあくまで「ローカルルール」なんだと気付くことができます。
日頃はブロックの恩恵?みたいなものはそれほど感じることはないのですが、今回の報告会はブロックがあることの意義を改めて実感するものであったと思います。
また、報告の中において、とある会の研修会で「初めて和紙公図を見ました」という会員さんがいるという紹介もされていました。人のことを云々できる立場にはないものの、研修会への出席率や会への帰属意識の低下が囁かれる中、会員さんのレベルもどうだろう、と思わないではない昨今、こうした報告会を通じて土地家屋調査士全体のスキル・レベルアップにつながればと思いました。
終了後の懇親会も大変盛り上がっていましたし、今回のように近畿ブロックの府県間で、それぞれの地域事情・慣習を持ち寄った交流は今後も続けていくべきであると感じ、帰路につきました。