今年6月に京都地名研究会により上梓されました「近江の地名 その由来と変遷 (淡海文庫)」サンライズ出版を拝読しましたので簡単に感想を書き留めたいと思います。
京都地名研究会が近江の地名について執筆することに同書を手に取る前には少し違和感も感じましたが、あとがきにおいて「外部の眼差しを持つがゆえに、かえって内部の本質を垣間見ることができる」と述べられているように、全体として「近江」以外の方にとっては内容が変にマニアックにならずに平易に読みやすくまとめられているように感じました。
さりとて、近江をよく熟知されている方にとって興味をひかない内容であるかといえば、例えば高島市にある三国峠についての解説については前から私自身も気になっていただけに、なるほど、と勉強になりました。何分、三国「峠」ですので、山の頂は当然別にあって、かつ国土地理院の地図(上の画像)にも「三国岳」が近くにあるようにみえることから、そのように誤解していましたが、正しくは「三国峠」が山の名称として正しいと解説があります。これは全国的にも珍しい「峠」の用法例ではあるようですが、地名や日本語の奥深さの一端がわかったような気がしました。
他にも琵琶湖周辺には「~浜」や「~浦」「~津」といった地名が現在もたくさん見られますが、水運の営みがもたらした地名群として整理されていた点も印象的でした。
また、全くの個人的な感想ですが、芥川龍之介の初期の創作に「芋粥」という短編がありまして、小学生の時に読んだと思うのですが、以降「藪の中」「河童」などと同じくらい私の人生観に影響を与えました。その「芋粥」はあらすじをざっくりまとめますと京都のさえない貴族が芋粥を飽きるほど飲みたいと考え、同輩の支配する敦賀へ芋粥の旅に出るというお話なのですが、本書では京都から敦賀を目指す際に、高島(西近江路)を通過したであろうということについて触れられています。ただ、これは地名というより、今の自分が改めて「芋粥」を読んだらどういう印象を受けるのだろうか…と、ふと思ったということだけかもしれません。
以上、本の詳細にはあえて踏む込みませんでしたが、昨今も災害などの面から必要以上に、とてもセンセーショナルに地名について取り上げられるケースが後を絶たない事例が見られますが、本書は地名をオーソドックスに学ぶきっかけになるのだろうと思いました。自らの住まう郷土の魅力を、「地名」というフレームを使って見つめなおすことは、地域の魅力を高め、人生の質をより豊かなものにしていくことにもつながるのではないでしょうか。