先日、とあるネットニュースを読んでいましたら、昨今議論が白熱している「選択的夫婦別姓制度」を理解するための書として、尾脇秀和著「氏名の誕生-江戸時代の名前なぜ消えたのか」(ちくま新書)が紹介されていました。
良書であるとのことでしたので早速読んでみましたが、なるほど江戸時代から明治時代にかけてわが国で巻き起こった「氏名」制度の大変革について具体例をもとにしつつ微に入り細に入り詳しく解説されておりとても感銘を受けましたのでご紹介させていただきます。
個人的には何年か前に、現在の滋賀県立公文書館で資料調査をした時のことを思い出します。明治初期の滋賀県庁職員録に当時の役職と職員の名前がずらずらと記載されていました。その名前を見ていくとすべてが「源○○」だの「平○○」のオンパレード、これは一体何なのだ、と驚いたものです。これは、当然現在でいうところの氏名では多分なくて、祖先をたどると織田信長が平氏で、豊臣秀吉が藤原家、徳川家康が源氏であるというような、由緒ある家系アピール?か何かだろうと勝手に解釈をしていましたが、本書を読むとそれは「実名」であると示されており、根拠がわかりました。私がもともとが歴史学の出身ではないだけに歴史学を修めた方にはこんなことは常識だったのかもしれませんが、この職員録に長い間、疑問と言いますか、違和感を覚え続けたことを記憶しています。
そういえば土地家屋調査士の仕事でも相続人調査で古い戸籍を見ることはあり、中には先祖を辿って安政年間の生まれの方であるとか、そういったケースもままありますが、いわゆる壬申戸籍は閉鎖されており、私たちが現在目にできるものはその後に改製されたものですから、氏名についても既に整理済で、「実名」を見る機会はありません。
その壬申戸籍についてはかねてより徴兵令との関連が指摘されていますが、本書でも氏名については国民の管理、やはり徴兵制の影響は大きいと指摘されています。たしかに、名前が歌舞伎役者のように何度も変わったり、同時に複数の名前があるようでは、徴兵逃れも出来てしまいそうですね。改名せずに一生を終えるのは、明治5年の改名規制前には非常識であった事実は認識しておきたいと思いました。
本書を読んで内容もさることながら著者が同窓であることに気づきました。大学院が同じでも私の様なアウトローには面識のかけらもないわけですが、ここまで濃い内容の出版物を世に出されている方に多少はご縁があるかと思うと嬉しくなりました。
他にも著作を出されているようですから機会をみて少しづつ拝読できればと思います。