石井良助著「印判の歴史」を読む

 

 先日、菅内閣総理大臣が退陣表明を行いました。コロナ対策に振り回された内閣で、その中での一つの功績と言っていいかどうかはよくわかりませんが、主要な政策の一つに「ハンコの廃止」があったと思います。どうやら、その担当大臣が有力な後継者と目されているようで、仕事柄ハンコの歴史にも興味がわいて石井良助著「印判の歴史」明石書店を読んでみました。

 

 本書は昭和39年作と少し古いものですが、ハンコにまつわるあれやこれや、中でも歴史をたどって細かに整理されており、なかなか新しい発見もありました。

 印判の来歴としてはさすがに日本発祥というわけではないです。最も古くて、かつ有名な印鑑は志賀島で発見された「漢委奴国王」の金印だと思いますが、当時の後漢で製造されたものです。中国の印鑑と言えば三国志演義で孫策が焼け野原となった洛陽の宮廷後で発見し、持ち帰ったとされる玉璽が思い出されます。この印を所持していることが正統な天下人の証ということで紹介されていたと思いますが、思えば印鑑ごときで何が証明できるのか、印を証明すべき皇帝の地位を逆に証する印など存在するものか、大変不思議な感じはしますが、当時の方々は玉璽に何か人知を超越した、霊的なものを感じていたのでしょうか…。

 

 それはさておき本書では実印の歴史として、江戸時代には庄屋に届け出されていたものが実印で、印形が相続の対象であったと解説されています。また中世には盛んであった花押は当時「印」と言われていたこと、近世に入って花押が廃れ、現在の様な印が普及したことについても解説がされています。

 

 明治に入り、ハンコも大きな転換期を迎えますが、実印は家制度の反映として男子のみ、他は爪印が多く用いられたようです。そもそも明治初期には氏名のあり方を巡って相当な混乱がありましたので、此の際署名よりもハンコの方が手っ取り早かった、という裏事情もあったのかもしれません。

 

 そういえば菅内閣ではFAXについても廃止といったことが言われていました。先日とある地元銀行の職員の方とやり取りしていましたら、以前は情報漏えいの観点からメール関係は全く受付されていなかったのですが、最近はメールの受信はOKということで図面などの資料を早速メールさせていただきました。長年の付き合いですが、私にとっては銀行に対しての初メールでした。しかし、考えるまでもなく今更な感じはしないでもありません。なお現在でも銀行からの送信はできません、といわれましたが、これも早晩改善していたければ大変ありがたいところです。

 

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