いつも資料調査などでお世話になっております滋賀県立公文書館が発行されておられます「滋賀のアーカイブズ滋賀県立公文書館だより-」2021.09.NO.11号に寄稿させていただきました。
「土地家屋調査士と歴史公文書」ということで公文書館の存在価値は決して過去を知れるだけでなく、今まさに現在進行形の社会課題にあたっても大変重要な意味を持つといった趣旨の内容です。宜しければご笑覧ください。
※以下、寄稿文書です
今年3月、私の所属している滋賀県土地家屋調査士会では制度70周年を記念して「滋賀の地籍―土地家屋調査士の視点から」をサンライズ出版より上梓させていただきました。編さんにあたって県立公文書館の所蔵資料について数多く活用させていただいたことに大変感謝する次第です。今回はその「滋賀の地籍」を通して感じた歴史的公文書の持っている現代的な価値の一端をご紹介させていただければと思います。
その前に「土地家屋調査士」という資格ですが、正直なところ知名度は高くはないものの、土地家屋調査士法第一条において「不動産の表示に関する登記及び土地の筆界を明らかにする業務の専門家として、不動産に関する権利の明確化に寄与し、もって国民生活の安定と向上に資する」ことを使命としている国家資格で、昨今では社会的にも認知が広がってきた「所有者不明土地問題」等の解決にも貢献しています。
少し前になりますが県政史料室(当時)の展示で「共有森林分配の告諭」明治14年1月18日【明い233(3)】が紹介されていました。当時の県令であった籠手田安定によって森林の乱伐を防ぐために集落の所有している共有森林をあえて細かく家単位で分けたということです。
所有者不明土地問題の解決が難しい理由の一つに山林地の土地境界がわかりづらいことがいわれていますが、県内の山間地では本告諭の影響を受けたと思われる一筆地・土地境界が今も広い地域で確認できます。その成り立ちを読み解く上で、改めて当時の意図や根拠を示していただいたことにより、問題解決の良いヒントになりました。土地境界には地域ごとの慣習の影響が色濃くありますが、高齢化や人口減少で継承が難しくなっています。そうした中で今回の事例は、地域の過去と現在との橋渡しを歴史的公文書が行うという、タイムリーなものでした。私たち土地家屋調査士としては、今後も県立公文書館を有意義に活用させていただいて社会的使命を果たして行きたいと思います。
滋賀県土地家屋調査士会 西村和洋