先月、岩波書店より「入会林野と所有者不明土地問題 ―両者の峻別と現代の入会権論―」が出版されました。主な著者は高村学人氏・古積健三郎氏 ・山下詠子氏となっていますが、中でも筆頭者の高村学人立命館大学教授には同大政策科学部での寄附講座や土地家屋調査士会の研修会等でも大変お世話になっております。
本書の内容説明として岩波書店のサイトにはこう記されています。
「所有者不明土地面積の三分の一を占める入会林野。現状調査に基づき、相続登記の義務化や民法改正が入会林野に及ぼす影響を考察。アンチ・コモンズの理論から土地問題を問い直す、コモンズ研究の新展開。所有者不明土地問題の研究・実務に関わる法学者・裁判官・登記官・弁護士・司法書士・土地家屋調査士・自治体職員必読!」
今回、早速ですが拝読させていただきました。
所有者不明土地問題を語る際に、このようなフレーズを目にされた方は多いと思います。「所有者不明土地は全国で20%、約410万ヘクタールの面積を占めると推計されています。これは367.5万ヘクタールの九州本土を大きく上回る…」
要するに「所有者不明土地」は既に九州一島(全国土の二割)よりも広い、早急な対策が必要だ、というわけですが、そもそもこの推計が正しいのかどうか、根拠とされている増田寛也元総務相らの民間有識者研究会の推計について正面から疑問を呈したり、反論したりしている論説を寡聞にして知りません。
ただ本書でも取り上げられているように司法書士会連合会長のコメントのごとく、本当の意味(まったく相続人にアクセスできないとか)での所有者不明土地はぐんと少ないと、私も肌感覚ですが思っています。
やや社会的なインパクトを与えることに重きをおいた(と思われる)推計が独り歩きして、実際に人口減少や過疎化による弊害は間違いなくあるものの、その課題を解決するためのスタートとなる正確な実態把握ができていないように思っていました。
本書では、そうした素朴な疑問に応えて下さったというのが先ずもっての感想です。「所有者不明土地」について、その内訳をみていくと1/3は「入会林野」であり、所有者不明というフレームの枠外である、と指摘されています。本書のタイトルが「入会林野」から始まることから、手に取るまでは正直「入会」の現代的意義?的なものには疑問符があったのですが、本書を読みますと入会地について正しく紐解く努力が所有者不明地問題の解決にとっては不可欠な要素であることがよく理解できました。
逆に、昨今の法改正の中心メンバーのお一人であられる山野目章夫早稲田大学教授の認識としては、既に多くの入会権、入会団体は消滅したので、それほど考慮することはないということです(今更山に芝刈りに、もないだろうということ)。しかし、本書では入会林野が現代的に変容し、無視できない存在であるという主張を多彩な事例をもとに展開されておられます。
正直私としてはどちらのご主張も捨てきれないところで、内心忸怩たる思いもありますが、登記の対象ではない入会権を実務家としてどう扱えばいいものか、不動産登記と慣習の関係性は何も筆界だけではないことを強く感じました。
個人的にはたまたまこの二年間、法務局の任命を受けて所有者等探索委員を務めさせていただきましたが、本書をもっと読み込まさせていただいて、実務の場に生かしていきたいと思います。
学術書ですし、とっつきにくい点もあり、「入会林野」のタイトルも一般からみればどうかと思うのですが、そこに惑わされず?土地家屋調査士に代表される不動産に関わる全ての実務者の方々にもご一読されることを強くお薦めさせていただきます。